by 渡辺天和斎 Information
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2013年 01月 13日
「そういえば隊長、兵学校には解剖ってありました?」 「解剖? 解剖学の実技か?」 「いえ、数人で一人の標的に襲いかかって、服を脱がして持ち逃げするという遊びなんですけど……」 「えーやだ何それ陸軍コワイ……;;」 「私も幼年校組から話聞いただけで、実際見たことはないんですけどね」 絵は拙作小説「半月の道標」4ー7より、月組での飲み会はこういうノリだったのかも……という妄想。 今日の記事は、陸軍・海軍(主に士官)のエロ話観の違いについてのお話です。 きっかけは、最近読んだ瀬間喬著「海軍用語おもしろ辞典」という本。その中に、こんな記述を見つけまして。 こういう隠語は、非常に便利で、下品さを隠すことができて好都合だった。私が警察予備隊に入って旧陸軍の人たちと親しくなったときのことである。陸軍将校にはこの種の隠語はないのか、それとも、海軍出身者には話しても通じないと思ってか、夜、ベッドに入ってから眠りにつくまで、この種の話をするとき、あまりに露骨に話すので、こちらが身のすくむ思いをしたことがある。(前掲書:「ギヤ」の項より) 確かに、陸軍・海軍両方のエピソード本を何冊か読み比べてみると、おおむねこの通りの印象だったんですね。 海軍士官が兵の前で話しても内容を悟られないようにするための、士官だけに通じる隠語というのも、陸軍士官用語としては見あたりませんでした。もちろん、陸軍の人たちもそっち方面のことをそのものズバリの言葉でいうようなことはせず、陸軍には陸軍の隠語もあるのですが。 冒頭の「解剖」のエピソードは、村上兵衛著「陸軍幼年学校よもやま物語」に書かれたもの。 このあそびは、昔の中学校でもしばしば流行ったが、校庭でひとりを取り囲み、服からズボンから、さいごの褌まで剥ぎ取って裸にしてしまい、衣服をなるべく遠くに投げてワーッと逃げ散る……というやつである。 さすがに陸軍士官学校ではなかったとは思いますが、まぁ参考までに。 余談ですがこの本、当時の生徒がプライベートに書いた手記とか、生徒同士の淡く純情な恋の話とかあってすごく面白かったです。その話もいずれ別の機会に。 話を戻して、海軍兵学校と陸軍士官学校−−同じ将校育成機関でも、比べてみると個々の教育内容はもちろんのこと、制度から方針からいろいろ違いがあります。資料を読み比べてみると、両校の女性観もずいぶん違うことがわかりました。 海軍兵学校が女人禁制だということは「見よ暁に!」の歌詞にも歌われていますが、その厳しさは現代人の想像を絶するものがあります。 古くは海の中尉著「江田島生活」(大正5年発行)に、休暇中女から手紙をもらったかどで上級生に鉄拳制裁を受ける三号生のエピソードが綴られています。この三号生にお達示を下した上級生曰く…… 『……此男が此程娑婆の或る女学生からレターを貰った事である。大体思想、体格、精神、気力皆完全な、明治維新以来踏襲しとる美風の兵学校生徒が、穢らわしくも婦女子の誘惑を受けるなどとは、其因循姑息、猥褻、野卑、薄志弱行、実に男らしくない。兵学校生徒にとっては婦人は盗賊強盗殺人犯より憎悪すべき者である、人道、軍紀、風紀、是等はたとい其罪を寛恕しても、軍人精神は断じて是を許さない。……』(読みやすいよう、漢字と仮名遣いを現代風に改めてあります) とまあ、女性からしたら「そこまで忌み嫌わんでも……」ともんにょりする内容なのですが、まあ戦後出た本でも兵学校はそういう雰囲気だったと、マイルドな表現で書かれていました。 そもそも入校式の時点で父兄にこのような説明がなされますからね。 七、交友について(生出寿著「海軍兵学校よもやま物語」より) つまり女性と深い仲になったのがバレたら退学です。 少尉に任官して女人禁制が解かれてからも、素人に手を出してはいけないとか、結婚するときは海軍大臣に届け出をして、相手の身元が確かなことを最寄りの憲兵分隊に調査させた上でないとできないなど、海軍士官の女性関係には厳しい制約が課せられていたようです(前掲書「海軍用語おもしろ辞典」より)。 そのせいばかりでもないのでしょうが、海軍士官の間でのヘル談=猥談には、ユーモラスで笑いを誘うようなものが好まれ、むき出しでいやらしいものは好まれなかったようです。それゆえ、一種の艶笑落語とでもいうべき創作ヘル談が主に艦の中で発達しました。 まぁつまり、海軍士官にとってのヘル談とは基本フィクションだったわけです。 では、陸軍士官学校の女性観はどうだったのか−−生徒が女性と接することについてどのように考えていたのか。 山崎正男編「保存版『陸軍士官学校』」に、「生徒心得綱領」と「生徒心得要則」の全文が収録されているので見てみると…… これが一個もないんです、生徒が女性に接することを想定した規定が。 そのほかにも規定や規則の原文がこの本にはいくつも収録されていたのですが、そのどこにも女人禁制とかそれに関する具体的な記述がないんですよね。強いて挙げるなら 外出に関する規定の 六 外出及休暇帰省中、遵守すべき注意、概ね左の如し と、退校に関する規定の 二 左の各号に該当する者は退校せしめらる(読みやすいよう、仮名遣いを現代風に改めてあります) くらいで、海軍兵学校の厳しすぎるほどの女人禁制ぶりと比べると、 「女人禁制? なにそれおいしいの?」 とでも言わんばかりのゆるさです。 かといって、陸軍士官学校の生徒が女にだらしなかったかというと……資料が少なすぎてわかりませんでした。 (この辺わかる方いらしたら解説お願いします(_ _) このような両校の校風の違いから、海軍のヘル談は基本フィクションでユーモラスに、陸軍の下衆話は実話ベースでありのままにという芸風の違いに至ったのではないかな、と思われます。 これ、戦後になってから出た戦争体験記の本でもそんな感じなんですね。 海軍さんのあっちの話はエス(芸者)などの玄人相手の粋な話という体裁をとったのばかりなのに対し、陸軍の方は実に生々しい。演習中民泊した先の娘さんに手を出して結婚まで持ち込んだだの、兵が将校集会所の脱衣場に細君を連れ込んで突撃を敢行しただの(以上、棟田博著「陸軍いちぜんめし物語」より)…… 例に挙げた元海軍さんが身のすくむ思いをしたのも無理はなかったことでしょう。 以上、陸海軍将校のエロ話に対する感性の違いと題してお届けしました。これ以外にも、調べるといろんな違いがわかって面白かったのですが、それはまた機会がありましたら。 長々とおつきあいありがとうございました。
by tenhosai-north
| 2013-01-13 07:01
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